70歳過ぎて自在に生きる ほいみんの日記

断捨離から、ヨガ・インド哲学・音訳へと関心が移っています。

【無人島の二人】抜き書き わたしががんになったら きっと読み返したいと思う

昔と違って副作用は軽くなっていると聞いて臨んだ抗がん剤治療は地獄だった。癌で死ぬより先に抗がん剤でしんでしまうと思ったほどだ。

医師やカウンセラー、そして夫と話し合い、私は緩和ケアに進むことを決めた。(扉より)

 

私もそういう選択をするだろう

 

明日は緩和ケアをやってくれるクリニックに初診に行く。・・・・

うまく死ねますように。(p12)

 

 

クリニックで話したあと

 

よかった。本当に良かった。私はクリニックの方々に助けてもらうだけでなくて、私の経験が、彼らや彼らがこれから出会う患者さんの役に少しでも立ちますようにと思った。うまく死ねそうです。(p18)

 

突然20フィート超えの大波に教われ、ふたりで無人島に流されてしまったような、世の中の流れから離れてしまったような我々も、これから少しずつ無人島に親しい人を招待してお別れの挨拶を(心の中で)しようと思っている。(p38)

 

夫の妹のお見舞い。妻の病気を話し合える来客は夫にとって慰めになると思いやっています。話題は楽しいことだけ、感謝もお別れも心の中で。

 

編集者の方が訪ねてくれたときも、楽しい話題に終始するようにします。

私と夫のふたりきりの無人島に外から人が漂着して風の便りを伝えてくれる楽しさよ。

私もこんな心持ちでお見舞いに行ったり、お見舞いを受けたりしたいと思わずにはいられません。

 

入院だけはもう本当に嫌なので慎重にしている。医師や看護師さんがいくら親切に接してくださっても、私にとって病院というのは少しずつ尊厳を削られるような場所だ。

特に今はコロナ禍で面会も禁止なので完全に孤立無援にされてしまう。(p64)

 

コロナ禍での病院や介護施設、高齢者施設の非常事態ぶりは非人間的だったんですよね。

 

仲の良い作家の唯川恵さんのお見舞いに

あれも話そうこれも話そう、でも泣いちゃうなと会うまで心の準備をしていたのに、会ってみたら何も言えなくて泣きそうな話は自分から切り出せなかった。多分唯川さんもそうだったのかもしれない。笑ったまま楽しいまま別れた。(p70)

 

山本さんからのアドバイス

 

今生で悔いがあるのは語学の勉強不足と書いたけれどももちろんそれだけではなく、ろくな運動習慣をつけなかったことを後悔している。激しい運動じゃなくても、年をとる前に筋力を保てるようなエクササイズを習慣にすべきだったと思う。(p81)

わたしもできてない!

 

訪問診療の医師や看護師さんは

無人島に毎週物資を届けてくれる本島の人という感じ。(p82)

どんなにか慰めになったでしょう!

 

思い出は売るほどあり、悔いはない。悔いはないのにもう十分だと言えないのが、人間は矛盾してるなと思う。(p84)

 

お見舞いに来た編集者の手を握りお互いに泣いてしまったとき

人が自分のために泣いてくれると、その人の中に私が生きていると思ってじーんとする。(p89)

死んで何もなくなってしまうわけではないと思えたら、

気持ちが軽くなるでしょう。

 

でも本当はあの人にもあのひとにもあいたかったと心の中で思う。

私が突然いなくなったら、皆さんを驚かせてしまうと思う。ごめんなさい。本当はお会いしてさようならとありがとうを言いたかったです。

全編がこの調子です。

この本が皆さんへのさようならとありがとう、なのだと思います。

 

週に一度の訪問看護師はほんとうにありがたい存在

医療機器の操作方法、ホットパックでリンパマッサージも。

不安は晴れるし、知識は増えるし、リラックスまでできて天国のよう。

それに自分の病気のことをよく知ってくださっている方に会うのは落ち着く。元気な頃の私を知っている人の前に出ると、どこかで「元気な顔しなきゃ!」と焦りが発動してしまうので。p138

いい訪問看護師さんに出会えるのは幸福なこと。

 

ステロイドの使用や腹水を抜くなど対症的な療法が続いていきます。

 

私の体調は第3フェーズに入ったようで、このさきどう書いていったらいいのか迷う。私が恐れている「痛いこと」「吐き気」「高熱」からは逃れられているが、体のむくみがこれほどつらいとは・・・(p143)

覚悟はしていても、否応なくそのときは近づき、週単位と宣告されます。

 

ふたりで暮らしていた無人島だが、あと数週間で夫は本当に帰り、私は無人島に残されるときがもうすぐ来るらしい。(p146)

 

緩和ケアのお薬はよく効くようです。

 

痛い、つらい、気持ちが悪い、むくみなどはありません。

でも何だか自分が変になってきているという感覚はある。(p166)

モルヒネによる幻覚とかもあるかもしれないです。

こんな時に思いもかけない自分の本性が出てしまったら怖い。

 

10月4日の日記は口述と思われます。

絶筆となります。

とても眠くて、お医者さんや看護師さん、薬剤師さんが来て、その人たちが大きな声で私に話しかけてくれるのだけれど、それに応えるのが精一杯で、その向こう側にある王子の声がよく聞こえない。今日はここまでとさせてください。明日また書けましたら、明日。(p168)

山本文緒さんにとって、夫は王子様だったのでしょう。

ライトノベルの出身の山本さん、王子様と幸せに生きることができてよかったですね。

 

在宅死の実際のドキュメンタリーとして参考になります。