70歳過ぎて自在に生きる ほいみんの日記

断捨離から、ヨガ・インド哲学・音訳へと関心が移っています。

『冷血』高村薫 著  誰の心にも冷血な部分はあるのか 隣人はどうすれば

行動には原因があるか

歯科医家族4人を残虐に殺した殺人強盗事件のお話です。

 

冷血(上) (新潮文庫)

冷血(上) (新潮文庫)

 

 

殺人を犯した理由が曖昧なことが、問題になります。

動機を見つけないと、警察って取り調べ完了にならないようです。

犯人の心の中を、生育歴から関係者などの供述から探ろうとするのですが、うまくいきません。

刑事は犯人の動機を追及します。

犯罪の動機を解明することで、犯罪の発生を未然に防げるからだと思うからでしょう。

でも、そんなふうに原因と結果が結びついているばかりではないのです。

この作品の中でも、原因は犯人自身にもわかりません。 

俺の歯なんて誰も見てなかったし、まともに心配してくれる人間もなかったから、治療を怠ったらどういうことになるか、俺自身が知らなかったんだ。それが心底悔しい。無知と無関心と、一人ぼっちの結果がこれだというのが、

この犯人の両親は教育者、でも見ているのは成績表だけ。

虫歯に悩んでいることを真剣に向き合わず、もちろん心の中も思いはかることはありません。

 

無知と無関心が、行きがかりのように冷血に殺人を犯す人間を育てたのでしょうか。

 

無関心の大きな罪

無知と無関心の環境に育っても、心優しく育つことは可能でしょうか。

暴力の虐待がニュースになりますが、無関心も立派な虐待です。

学校のいじめでも、無関心=無視が子供の心を大きく傷つけます。

でも、

家族に、隣人に、社会にも関心を持つことが必要だと言い切ることもできません。

お節介になる可能性もあります。

 

そこで思いついたのは、「利他」の気持ちです。

お節介の根底に「利他」があれば、独りよがりにはならないのかしら。

 

作品の中で、犯人二人の心情が事細かく記述されています。

この二人の家族、隣人、先生などがどんな風だったら犯罪者にならなかったのかを考えてみました。

どんな風でもこの犯罪を防げないとしたら、殺された人が救われません。

殺された家族のことも、心情移入できるくらい細かく書かれているのでよけい胸が痛むのです。

 

たくさんのことを考え、自分の胸の奥底をのぞき込むこむことにもなります。

 

今自分の平穏な生活が、ありがたいことだと思えます。