ミステリーじたて
平安時代な有名な女流歌人を題材にした、ミステリー小説になっています。
どこまで本当かわかりませんが、男女の恋愛が政治に巻き込まれてしまいます。
宮廷が舞台ですから、政治とは無関係とはいかないのですが、それにしても女は道具のように使われます。
それを宿世とあきらめ、生きた証を歌にこめた女性の物語です。
平安時代(貴族階級限定)の結婚制度、日常生活もわかりやすく描かれています。
男が通う 結婚の形態、除目(人事異動)に一喜一憂する受領階級の生活、宮廷への出仕とそこでの人間関係がドラマ仕立てになっていて興味深いです。
浮かれ女
恋多き女と言われている和泉式部は、その時代から「浮かれ女」として評判になっていました。これは藤原道長がそう呼んだことに由来します。彼女の扇を見つけた道長が「うかれ女の扇」と書きつけ、それに機知に富んだ歌を返して歌人としておおいに面目をほどこします。
小説の中では、自分では浮いた気持ちはないのに噂に流されて、男性との恋を重ねることになっていく姿が描かれています。
宿世 おもうようにはいかない
この小説では和泉式部は、事実ではない噂のために夫から離別されてしまいます。
夫への未練で真実を訴えようとするのを、実の母親がたしなめます。
「おもうようにゆかないのが宿世、抗うたとてどうにもなりません」
この宿世と言う言葉が何度も出てきて、女達の涙を押さえ込みます。
すくせ【宿世】
〔「しゅくせ」 「すぐせ」とも〕
① (仏教の三世観を基礎とした考え方で)前の世。ぜんせ。
② 前世からの因縁。宿縁。宿命。 「我が-のがれざりけるを/宇津保 俊蔭」三省堂 大辞林より
宿命だから逃れることができないというわけです。
因縁とか前世は仏教でもインド哲学でも根本的な思想です。
歌で自己表現
この時代は、プライベートなことは歌で公表してしまうようです。
それが、真実なのか技巧なのか本歌取りなのか、どのように解釈するかは相手次第ということにもなりかねません。
歌に込めた真実の気持ちは、相手に伝わるのでしょうか?
恋の駆け引きをするつもりが、深みにはまってしまうこともありそうです。
本当のことはわからないままですが、後世の人々に様々な想像する余地を残してくれます。
それで、和泉式部の物語を女性作家たちが何人も作品に取り上げたのでしょう。
残された歌の中に、女として母としての心情が詠み込まれています。
今の私たちもその思いに共感できるのですから、人間っておもしろいです。
そういう感情の出てくる根っこの部分はどこにあるのかしら。
そういうことをとことんまで追求したのがインドの哲学者なんでしょうね。
大昔から変わらない心の問題、宗教と哲学が生まれてきた所以です。