70歳過ぎて自在に生きる ほいみんの日記

断捨離から、ヨガ・インド哲学・音訳へと関心が移っています。

『明るい方へ 父太宰治と母太田静子』太田治子著 離れられなかった二人

罪を犯した者同士

太宰治と太田静子とのあいだに出来た子供、太田治子さんの作品です。

二人の出会いから、どんな間柄だったかを子供の立場から書いています。

太宰は心中事件で相手の女性を死なせています。

静子は最初の結婚で出来た赤ちゃんを肺炎で死なせ、自分のせいだと思っています。

だから、太宰は自分と同じ罪を抱えている、自分たちは心が通じ合うと思い込みます。

太宰の方は、夢見る夢子さんで無邪気で世間知らずの静子に心の安らぎを感じます。

 

日記が欲しい

太宰はそれまでも人の日記を下敷きに作品を書いています。

お嬢様育ちの静子は、お姫様のように上品な母親との暮らしぶりを、

太宰に勧められて日記に書くようになります。

それが、太宰は欲しくてたまらないのです。

『斜陽』の構想を静子に聞かせ、作品を仕上げるために日記が欲しいというのです。

静子は「身も心も日記も」太宰に捧げる気持ちになっていきます。

 

人たらし

太宰は言葉で人の心をたらしこんでいきます。

「あなたひとりの生活のことなど、どうにでもなります。安心していらっしゃい」

「一ばんいいひととして、ひっそり命がけで生きてゐてください。」

などの言葉で、静子はどんどん太宰をたよりに生きる気持ちを固めていきます。

手紙の最後に

「コヒシイ」なんて書いて、女心をつかんでしまうのです。

他の人との縁談とか、何度かひきかえすチャンスはあったけど、

太宰の弱さや自分勝手に引きづられて、

「芸術のために」二人の間の子供を望むようになるのです。

現実の厳しさは考えないままに。

 

明るい

タイトルにある「明るい方へ」にあるように、

内容は暗いばかりではないです。

太宰も静子との明るい将来を夢見たこともあるだろうけど、

それはまったく現実的ではないただの思いつきです。

静子も太宰に愛されていると信じられないけど、

芸術のためと思い直します。

太宰との絆、太宰の作品の中に生きることで、

罪ある自分が生きるための明るさと力を得ていたのだと思います。

 

娘の治子から見て、

「母はどんな貧乏生活でも明るく見えた」とあります。

二人の関係が「明るい」ものでなくては、治子は自分の誕生を肯定できないでしょう。

太宰のずるさも、静子の世間知らずも、治子は客観的に描写しようとしています。

そのふたりの資質が、自分の中に流れていることを確認しているのかも。

 

太宰のまわりの人

以前松本侑子さん著『恋の蛍 山崎富栄と太宰治』を読みました。

静子さんと富栄さんが一緒にうどんをすする場面があります。

妊娠を太宰に伝えこれからのことを相談したいのに、

太宰は静子と二人になるのを避けるため文学仲間と飲んでばかり。

そのとき富栄も静子もお互いと太宰との関係を知らなかったのです。

太宰は本当に小細工の出来ない自分勝手な男です。

 

太宰はいつも死にたいと思っていたそうです。

人が怖いと思う自分自身にもっともおびえていた。

太田静子は彼にとって何らおびえを持たずにすむごく少数の相手であった。

 

賢い妻の美知子とは家庭を作り、

静子とは明るい夢を無邪気に語り、 

富栄は一緒に死んでくれる人。

 

私はこんな人たらしに出会わなくて良かった。

ひとたまりもなかっただろうな。

 

 

 

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たくさん歩いてランチ休憩