70歳過ぎて自在に生きる ほいみんの日記

断捨離から、ヨガ・インド哲学・音訳へと関心が移っています。

『我らが少女A』高村薫 著 ぐんぐん引き込まれたけど、あれ? 

高村薫さん

2019年発行だから、高村さんの最新作でしょう。

彼女の著作をまとめて読んだ昨年11月に、図書館にリクエストしていました。

今になってようやく私の番になったのです。

我らが少女A

我らが少女A

  • 作者:髙村 薫
  • 発売日: 2019/07/20
  • メディア: 単行本
 

 どうしてリクエストしたか忘れてたのですが、読み出してすぐ思い出しました。

登場人物の刑事が同じだったからです。

それと、事件の関係者を丹念にたどっていく粘着質な描写にも覚えがありました。

hoymin.hatenablog.com

この本と同じ刑事が出てくる高村薫さんの「合田シリーズ」です。

 

なじみのある地名で現実感

吉祥寺とかなじみのある地名や駅名が出てきます。

現場関係の地図もあり、その位置関係を頭に入れておかないと筋を追うことができません。

荒唐無稽のお話ではなく、現実にある場所で現実に起こったかもしれない事件を描いています。

登場人物の人物像がしっかり書き込まれています。

たとえば女子高生は類型的ではなく、一人一人個性的です。

外面と内面とのねじれ、他人の評価と実像とのずれなどを細かく細かく、書き込まれています。

だから、読むときも真剣に本に立ち向かわないと、本から出るエネルギーに負けそうになります。

500ページ以上ある作品ですが、先が知りたくて一気に読んでしまいました。

でも、読み終わっても事件の解決はないのに驚かされます。

現実には簡潔明瞭な答えなどない、ということでもあるのでしょう。

 

誰にも優しい目配り

登場人物に「悪人」はいません。

誰でも「悪」の種は持っている、それが発芽するかしないかだけという『冷血』と同じ人間観だと思いました。

他人、いいえ家族に対しても冷たい心しか持てないこともあります。

その同じ人が、他人に優しくしたくなるときもあります。

若いころの自分を、苦い気持ちで思い出し、今なら他の対応もできたと後悔します。

そんな全部を含めて、人間だし人生なんだとこの本を読んで思いました。

誰かを悪者として決めつけることなく、全員に優しい目配りを感じます。

死んでしまうのでは、と思われた元警官夫婦が田舎で再出発できたのは私も嬉しくなってしまいました。

 

人生とは

いつになっても心はあれこれ動いて、ときには危険な方向に行くのも人生です。

 

いくつかの偶然が重なると思いがけない事件になるし、何もなかったかのように日常が続く場合もあります。

 

そんなすべてを物語に詰め込んで、濃密な世界を作り上げています。

 

援助交際SNS、ゲーム、ADHD警察大学校など高村さんの取材力にも感服。

たくさんの人の人生の一部分を共有できたような読書経験でした。

読書の醍醐味ですね。

 

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