70歳過ぎて自在に生きる ほいみんの日記

断捨離から、ヨガ・インド哲学・音訳へと関心が移っています。

【小説 8050】林真理子 著 正義があると思えるのは精神衛生にいい

8050問題

林真理子さんが現在顕在化しつつある8050問題を取り上げました。

青年期にひきこもった人たちが中年になり、

定年後の親の年金を頼りに暮らすようになります。

親が亡くなった後、社会生活が出来ないまま放り出されることに。

小説の中では、そうならないように20歳の青年の親が立ち上がります。

かれの引きこもりが中学校の時のいじめが原因だとわかると、

加害者と学校を訴える裁判を起こすのです。

 

引きこもりを立ち直らせると称する各種団体。

家から連れ出すというサービスの存在。

いじめを隠蔽する学校側。

引きこもりを抱える兄弟と夫婦の問題。

さすがストーリーテラーの林さんです。

たくさんのエピソードがちりばめられて一気に読ませます。

 

心の傷

少年少女がいじめられているのを家族に訴えない、

これは良くわかります。

自分も辛いけど、家族も悲しませたくない。

自分だけ我慢すればいいのでは、と思ってしまう。

もっといじめが酷くなったり、自分の立場が悪くなる。

容易に想像が出来ます。

だったらどうしたらいいのか。

難しいです。

小説の中でも、夫婦が責任をなすりつけあったりします。

姉からも対処の方法が悪いと非難されます。

本人も「復讐」と決めていても心が揺れ動きます。

簡単に癒やせない心の傷です。

 

ヒーロー登場

小説の中では庶民派で正義感の弁護士が現われます。

彼がヒーローのように現われることで事態が動いていきます。

でも弁護士が動くのは最後の2割で、

当事者ががんばって動いてくださいと言われます。

 

父親はいじめた加害者や当時を知る人を訪ね歩きます。

青年もだんだん裁判に関わるようになっていきます。

母親も長年抑え続けた自分の気持ちを開示していくように。

家族みんなが裁判をする過程でヒーローになっていったと思います。

最後に姉が選挙に打って出て、

「引きこもりだった弟が居ます。教育問題を考えたい」

「多様性に富み、誰もが再チャレンジ出来る仕組みをつくり・・・」

とパンフレットで訴えます。

このお姉さんも強くてかっこいい。

一人一人が自分の力を出していけば、

世の中が良くなるような気がします。

 

明るい

小説の最後が明るくて救われます。

いじめ問題を取り上げた小説は、心を暗くしがちです。

 

息子の車椅子を押す父親が、

日常の何気ない会話を取りもどしています。

息子は自分の足で歩き出したいと苦しいリハビリにチャレンジします。

離婚した妻も息子を仲立ちに新しい家族関係を作れそうです。

 

重くて暗い題材を取り上げていますが、

暗澹たる気持ちにはなりません。

直木賞芥川賞の違いってこういうことですね。

林真理子直木賞作家で娯楽性を重視した大衆小説家とも言われます。

読んでいて難しい言葉もなく、おもしろいです。

そして人生は決して悪いことばかりでなく、

いいこともあると思わせてくれます。

 

正義が(も?)あるって思わせてくれた小説でした。

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