中学校の授業
梅原は2001年に京都市の洛南高等学校附属中学校で「宗教」の授業を行いました。
そのときの授業内容をまとめた本です。
- 作者: 梅原猛
- 出版社/メーカー: 朝日新聞社
- 発売日: 2006/10/01
- メディア: 文庫
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東寺の境内にある真言宗設立の学校、つまり空海が建てた綜芸種智院の流れをくむ学校で、道徳や宗教の必要性を説きます。
世界の紛争にも目を向けます。
科学の発展では解決できない問題を、宗教からのアプローチで解決できるのではと語りかけます。
・第一時限 なぜ宗教が必要なのだろうか
『カラマーゾフの兄弟』から神の問題を考える。
神がなければ、文明も道徳も存在しない。
救いはどこにあるか。
今の教育に道徳とか宗教がないことを憂います。
どんな風に生きるかを、いいことと悪いことを教えていないからです。
・第二時限 すべての文明には宗教がある
西の文明は牧畜から小麦栽培へと進むとき、森を破壊していった。そういう人間中心主義の文明が原水爆を作り出したのに対して、東洋の文明は人間と生きとし生けるもの(自然)との共存という根本思想。
それが東の文明、東の宗教の強み。
人間中心主義では滅びてしまう。
・第三時限 釈迦の人生と思想を考える
西洋の聖者は殺されるが、釈迦は静かに死につく。
欲望をコントロールすること、すべての人は平等であることを説く。
利他、自己管理の教えで、心の平安を求める。
・第四時限 大乗仏教は山から街は下りた
釈迦の弟子たちは山の中で一人静かに悟りを開こうとした。
龍樹の考えは、町では多くの人間が悩んでいるから、町に出て悩んでいる人間を救おう。
大乗仏教の特徴は自利他利という菩薩行で、他利行の傾向が強い。
仏教の三つの原理は、平等・自由な知恵・慈悲
『般若心経』のエッセンスは「空」
世の中のことはすべて空である。実体がない。世の中のことは実体がないのだからそれにこだわらない、こだわらない知恵が本当の人間の知恵である。
・第五時限 生活に生きる仏教の道徳
四弘誓願(しぐぜいがん)
あらゆる仏さんの共通な願いで4つある
こういう気持ちで人生を生きたい。
そうしたらいい人生を送れます。
宮沢賢治は、こういう精神で生きていた。
ほとんどの人間には不可能なことです。
でも大乗仏教はそんな大それた願いを持つのです。
煩悩無数誓願断 いろいろな煩悩を断ちたい
法門無尽誓願学 尽きないほど多い仏教の学問を学びたい
・第六時限 討論・人生に宗教は必要か
「なぜ議論するか?自分で考えることができる人になって欲しいから」
中学生が宗教についての議論。
これから生きていくにあたって、思想的にちゃんとした自分の意思を持った人間になるための練習。
・第七時限 日本は仏教国家になった 聖徳太子・行基・最澄
日本は大乗仏教の国である。
在家仏教、家にいて普通の姿をして仏教の信者。
聖徳太子が国の決まりの中心に仏教思想を置いた。
行基において、神さんと仏さんが出会って行基仏になり、民衆に大変人気があった。
最澄は純粋を固守して、闘いの一生を送った人です。私は人柄としては最澄が好きですが、やはり空海の偉大さには及ばないと思うのです。ところが、あんまり先生がえらいと、先生が全部やってしまいますから、空海にはいい弟子が出ない。最澄にはいい弟子がたくさん出まして、叡山を盛んにしていきます。
・第八時限 空海が密教をもたらした
密教は現世肯定、感覚肯定。
密教の思想は、闘争があることは認めながら、世界を調和的に考える。調和がいちばん大事だという思想を、曼荼羅は持っている
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大日如来が宇宙の真ん中にいるが、自分自身のなかにも小宇宙がある。
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だから自分が目覚めれば大日如来と一体化できる。
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皆さんの体の成分は地球の成分と同じですね。だから皆さんがすなわち地球なのです。
自分は大日如来と同じだ。自分の中に大日如来がいるから、自分が大日如来と一体になることができる・・・大日如来の力が自分の力になるのですから、そこで人間が大きな能力を発揮することができる。
だから密教では加持祈祷をするのであって、迷信ではない。
・第九時限 鎌倉は新しい仏教の時代 法然と親鸞
鎌倉時代は日本人の宗教的情熱が激しく燃えた。
いまの日本でさかえている仏教宗派のほとんどはこの時代に生まれた。
浄土宗はそれまでの学問や財力ある人だけが救われる欠点を補う。
念仏を唱えるだけという簡便さで、庶民に劇的に広がっていく。
法然の教えの中心は「凡夫往生」凡夫には女人も入る
親鸞に至っては、悪人も往生できるし戒律を破ってもいい→肉食妻帯
・第十時限 鎌倉は新しい仏教の時代 日蓮と禅
日蓮の仏教は日本独自、禅は当時中国で流行していた仏教の輸入。
日蓮は太鼓をたたいて「南無妙法蓮華経」と唱えるから元気が出る。
あの世ではなくて、この世で自分は仏になり力強く生きる気持ちが強い。
仏教にもとづく新興宗教は、ほとんどが日蓮系(強い行動力を持っている)
禅は個人が仏になる、自分以外に仏はない。
そのための方法は二つ。公案と座禅。
公案はそのときそのときに独創的でなくてはならない。禅問答。
座禅は釈迦と同じ姿で瞑想することで、釈迦そのものになる。
禅は高度で知的な仏教、同時にあいまいで偽物も生まれやすい仏教。
・第十一時限 現代の仏教はどうなっているか
明治以降、国家主義の教育では天皇崇拝が真ん中で仏教は排除された。
近代では文学者が仏教の精神を伝えた。
幸田露伴・夏目漱石・谷崎潤一郎・川端康成・宮沢賢治・岡本かの子・坂口安吾・瀬戸内寂聴など
著者は宮沢賢治がいちばん好き。
世界が全体に幸福にならないうちは、個人の幸福はない。
個人の中に全生物の歴史が入っているという世界観。
・第一二時限 いまこそ仏教が求められている
宗教は個人と地球の運命に関わってきている。
イスラム教とキリスト教の闘いも、「異母兄弟である一神教同士の対立」
世界は多を含むからすばらしい。自然との共存、思想や信条の違いを全部飲み込んでいくふところの深さを持つのは、仏教(東洋思想)であり、
多神論の復活によって、他人の神や仏も大切にするようになればいいのでは。
神様は多様性を好む
自利他利の精神で立派な人になっていただきたい。