先入観も期待もなしに観た映画だったけど、良かった。
さすが、ジブリ映画ってことなんだろうけど、豊かな世界観と厳しい現実を見つめる眼をかんじた。
飛行機の設計を夢見て一途な堀越の姿に、中島飛行機に就職し戦後飛行機を作れなくなって無職になった父の姿を重ねてみてしまった。
実際は別に飛行機に夢を持っていた人でもないんだろうけど、亡くなった人はどんなふうにも美化できるもんね。
父が生きている間は愚痴ばかり言っていた母が、今になって良くない思い出は忘れてしまったように父に感謝して、それを子供たちにも押し付けるような行動をとっていることなんかを思いだした。
それはそれとして、映画の主人公はすがすがしくまっすぐ、若い二人の恋愛は胸を打った。
ゼロ戦を美化しているという批判があるようだけど、戦争の道具にもなった飛行機だけど、
「それは不幸なことだった、本当は乗っている人が楽しく、見ている人が美しいと思う飛行機をつくりたかった」
というメッセージは繰り返し送られていたと思う。
戦場に行って帰らなかったパイロットたちへの鎮魂も感じられた。
戦争下でも、紙飛行機を飛ばして笑いあう恋人たちがいたし、病気療養のサナトリウムでも回復への希望を捨てない病人たちがいた。
どんな状態でも、「さあ、生きよう!!」というメッセージなのだと思う。
堀越二郎は戦後も生き延びて、日本の航空界に貢献したそうだが、有為の青年たちがたくさんあの戦争で死んでしまったことを忘れてはならなくて、それにひきかえ生きている自分たちがどんな生き方をしているか問うべきだと思った。
映画の中でイタリアの飛行機設計の大家との夢の中での対話で
カプローニ「創造的人生の持ち時間は10年だ…君の10年を、力を尽くして生きなさい」
この言葉が胸に響く。働き盛りでなくても、どんな人にとっても人生の持ち時間は限りがある。この年代になったら、10年でなく、1年ずつを力を尽くしていきなさいと言われているのだと思う。